【(独断と偏見のみで選ぶ)モダーン・ジャズ・サックスおすすめの名盤紹介】

ガイド :crow(サクソフォーン奏者/インストラクター)

1)バラード ~ ジョン・コルトレーン
コルトレーンの作品の中では、「初心者からの評価が高い」「マニアからの評価が低い」というジャズにありがちなよくわからない現象の対象No.1と言えるかもしれない。
まぎれもなく本作は至高の出来であり、決して陳腐なバラード集ではない。テナーサックスを用いたバラードの演奏はこのアルバムの発表をもって、あたらしい可能性を与えられたのである。

2)Bird at St Nick's ~ チャーリー・パーカー
数多くある作品の中でも、録音の悪さなど評価を下げる要素は計り知れない大変「よくない」とされている一枚。さることながら、このライブでのパーカーのプレイは熱気にあふれパーカーの魅力がそこら中に詰まっている。録音の悪さもことパーカーに限っては当時の空気感のようなものと錯覚できれば、あなたも立派なパーカー中毒だろう。

3)サイド・バイ・サイド ~ デューク・エリントン&ジョニー・ホッジス
これがスイングというのだ、と言わんばかりの演奏。名手ジョニー・ホッジスのプレイもさることながら、やはりバンドサウンドがサイコーにゴキゲンだ。ジャズというリズムが、どんなに楽しいのかを再確認させてくれる、そんな1枚だ。

4)サキソフォン・コロッサス ~ ソニー・ロリンズ
前後の作品群と聴き比べてみればわかるとおりこのアルバムにはロリンズのほかのアルバムにはない魅力がある。これほどまでに緻密で計算されそれでいてエモーショナルな演奏をしているロリンズは他で探すことはむつかしいだろう。非常に完成度の高い、紛れもない名盤中の名盤である。

5)Pres & Teddy ~ レスター・ヤング
レスター・ヤングと言えば古めかしいスイング期のテナーの代表選手のように捉えられがちであるが、この人のプレイスタイルはスイング期のそれにとどまらないことを認識している人は多くはない。ひとりのプレイヤーの人生においてメインストリームの音楽が変化することはままあることであり、彼の場合もそのスタイルはキャリアの多くを通じてモダーン・ジャズと通じているのである。

6)ダウン・ホーム +6 ~ ズート・シムズ・カルテット
ズート・シムズという人は、他のプレイヤーと比べても非常に演奏の能力が高い人で、
「思いついたことをすぐにそのとおりに吹くことが出来た」「楽器を本当に”思った通り”に吹くことが出来た」などのレコーディングエンジニアの証言が残っている。スイングのスタイルとバップスタイルを混合したようなプレイスタイルでそういった意味では前述のレスター・ヤングの似ているとも言える。

7)フレンズ ~ チック・コリア
チック・コリアの作品からも1枚選出してみよう。ジョー・ファレルのテナーとフルートが存分に楽しめる最高のセッションがここにある。タイトなリズムと繊細なメロディ、メンバーすべてのその非常に高い演奏能力を持ち寄り結晶と化したような音楽。

8)Born Again ~Tom Scott
フュージョンを中心として、多彩な活動を続けるトム・スコットの作品から一枚紹介したい。ギラギラと光彩を放つようなその音色をもってジャズに取り組むスコットが聴ける貴重なアルバムである。

9)Renaissance ~ Branford Marsalis
現在も精力的な活動を行っているブランフォードの傑作である。緊密なインタープレイ、揺るがぬフレイジングとビート、すべてにおいて彼のその高い実力をいかんなく発揮しているといえる。

10)ピープル・タイム ~ スタン・ゲッツ
これが最期のモダーン・ジャズといえる記念碑的な作品であると思っている。生命を終えようとしているゲッツの、渾身のブロウとそれに応えるバロンのピアノ。これこそ珠玉の名盤と言えるだろう。
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今回はジャズという大きなカテゴリをもつ音楽のほんの一端にすぎないモダーン・ジャズという範囲に限定して10枚のアルバムをご紹介した。
まだまだ魅力あふれる作品が残っているのを、網羅することが出来ずに残念に思う。
また、モダーン期とは多少ズレのあるものの、より現代に近いジャズを少しながらご紹介しておいた。このように時代によって大きく変化するのも、ジャズという音楽の魅力の一つであろう。

<黒田雅之:サクソフォーン奏者/インストラクター>
1975年出生 17歳で日本のトッププレイヤー森剣治氏に出会い教えを乞い、以後芸能人やシンガーのサポートを含め幅広く活動。
その多彩なプレイスタイルはフィールドを選ばず、活動の場はジャズを中心に近代音楽全般からクラシックまでに及ぶ。
またホーンセクションのアレンジも手がけ、自己のグループ「Black Camellia」「Trad!!!」などでプレイヤー兼アレンジャーとしても手腕を発揮している。
黒田雅之さんのHP
http://tubax.blog86.fc2.com/