ビル・エバンス聴いてる場合やないで!怒濤のドルフィーベスト5

Eric Dolphy(1928 – 1964)ガイド 矢野立秋(JAZZ音の郷オーナー)

 若者は怒っていた。この社会に、政治に、大人達に、そして自分自身に。そのどうしようもない怒りを音楽で表現した。ボブ・ディランがいた。ジミヘンがいた。ロックのうねりがあった。反戦フォークがあった。そしてジャズ界にはエリック・ドルフィーという怪物が現れ、燃え尽きた。
 音楽は喜怒哀楽の発露であり、人の情念の映し身だ。ドルフィーのバスクラはいななき、ドルフィーのアルトは咆哮し、ドルフィーのフルートは、ある時はすすり泣き、ある時は泣き叫ぶ。

Outward Bound(1960)Outward Bound(1960) 1960年に初リーダー作「Outward Bound」をリリース。表現においてそれ以降の彼の録音よりも穏やかではあるが、他のメンバーの素晴らしさもあって、デビュー作としては当時衝撃的だったことが想像できる。そのデビュー作からわずか四年後の1964年6月29日にベルリンの地で他界する。しかし、その短い期間に数えきれないほどの録音を残し、後のジャズ界に計り知れないほどの影響を与えた。



Last Date(1964)Last Date(1964) ドルフィーを語る時に必ずと言っていいほど採り上げられるのが遺作「Last Date」(近年それ以降の録音が発見され最早遺作とは言えないが)の最後に録音されているドルフィーの肉声である。「When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again.」死の直前に残した肉声の内容としては実に示唆に富んでいてジャズ界を疾走して燃え尽きたドルフィーらしい言葉である。



Out There(1960)Out There(1960) わずか四年間で前期も後期もあったものではないが、あえて言うなら前期の作品で秀逸なのが、ロン・カーターをチェロで起用した「Out There」。デビュー作からわずか4ヶ月後の録音だが、ここでのドルフィーは完全に独自の表現を確立し吠えまくっている。フロントの自分以外はチェロ、ベース、ドラムというピアノレスの編成であるという奇抜さを選択するというのも彼の異才という他はない。



At the Five Spot, Vol. 1(1961)At the Five Spot, Vol. 1(1961) ドルフィーの代表作として他は外されても絶対に外される事がないのがファイブスポットでのブッカー・リトルとの双頭コンボによる録音だろう。生前リリースされた二枚のLP以外にも多くの録音が残されていたようで、死後すぐに一枚、その後も多くの作品がリリースされている。どれも捨て難いがここではやはり一枚目にリリースされた「Eric Dolphy at the Five Spot」を挙げておこう。後にVol.2が出て、これは通常タイトルの後にVol.1とつけるのが慣例となっているがアルバムタイトルの印刷にはその文字はない。あまりの反響の大きさに急いでVol.2をリリースしたというのが想像出来る。のっけからジャズワルツの「Fire Walz」で吠えまくるんだからみんな呆気にとられたんじゃないかな。加えてブッカー・リトルがある意味ドルフィーより洗練されたフレーズを滔々とした美しい音色でそれも速射砲のように吹きまくる、まさにジャズの新しい夜明けを告げるような演奏を繰り広げる。他のメンバーも歴史的名演だ。でも、ここで気づく事、それはビートはきちっと刻む事。フレーズは暴れまくってもバックのビートは崩さない。きちっとしたわかりやすいビートの中で自由奔放に暴れ、咆哮し、泣きわめく、それがドルフィースタイル。

Out to Lunch(1964)Out to Lunch(1964)  最後に5枚目。唯一名門ブルーノートに残した「Out to Lunch」。唯一ビートにも手を加えようかなと思い始めたのではないかなと思わせる作品。それがジャケットの時計にも現れているのではないかというのは穿った考えか?その意味ではドルフィーの作品の中では最もフリー路線に近づいている。死の数ヶ月前に録音されていることを考えると、もし彼がその後も存命であったとしたらここで見せているような表現をその後発展させていったんじゃないかと思わせる。この作品を録音した後、すぐにミンガスグループの一員としてヨーロッパへ死出の旅へと出発する。ヨーロッパではミンガスというリズムの巨人相手にその呪縛を解き放せず、ミンガス一行がヨーロッパを後にしても一人ヨーロッパに滞在、現地ミュージシャンと演奏するも、まだまだ自分の新たな路線を一緒に築けるプレイヤーと出会うことなく帰らぬ人となってしまった。その事を考えると、本当の意味での遺作は本作品ではなかったのか。
【追記】なぜタイトルに「ビル・エバンスなんか聴いてる場合じゃない!」と入れたのか。それは、ドルフィーとビル・エバンスは真逆だと思えるからである。否定しているわけではない。音楽のベクトルが真逆だと思う。そのことにつてはまたの機会に述べることもあろうかと思う。


[生駒Jazz音の郷]オーナー矢野立秋さん
近鉄奈良線の中央改札から徒歩三分の所に「Jazz 音の郷」はあります。タイムドメイン社製のYoshii9がメインシステムです。LP、CDはもちろんのこと、最近では大画面にプロジェクターでYouTubeにあるお宝映像を発掘しては映写することも多いです。音は最高の音で聴いていただけます。また、週末を中心にジャズを中心としたライブをやっております。自慢じゃないですが、かなりハイレベルな内容です。しかし、初心者でも全然大丈夫!一見小難しそうに見えるようですが、実は心底優しくて陽気なマスター(大笑)が手取り足取りジャズの楽しさを説明いたします。
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